一両目 心の旅路

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「もしかして、名付けた人って……」 「親父だ」 「やっぱり!」  ウサミミは興奮した。 (お父さんが、鉄ヲタなんだわ!)  曳野家の名付けの秘密に、ついに切り込んだ!  鉄って本名なのかと今まで不思議だったが、お父さんが鉄道好きなら納得だ。 (しかも、名前がセンロって……。兄は鉄で……。ププ……)  ウサミミは、口元を手で押さえて笑いをこらえた。  しかし、千路はそれを見逃さず、冷たい視線をウサミミに浴びせてきた。 「この名前を笑いたいんだろ?」 「い、いえ……」 「笑えばいいさ。昔から、皆同じ反応で、少々うんざりしている」  千路は、本気でウンザリしているようだ。 「すみません……」  ウサミミは素直に謝った。 「兄とセットで名乗ると、必ず笑われて嫌な思いをしてきた。嫌な名前だ」 「嫌なんて考えたら、もったいないです。千路さんは素敵な名前です。それに、お兄さんは自分の名前をいつも堂々と名乗っていますよ」  多分、曳野鉄は自分の名前に対して嫌な感情はなく、むしろ、大好きだろう。 「それはサンキュー。今はもう大丈夫さ。さすがに慣れた。兄は変わっているんだ。自分の兄だけど、小さい時からそう思っている」    千路は、電車シートソファにドカッと荒々しく座った。  見た目から動作まで、一つ一つが兄の鉄とは正反対だ。
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