一両目 心の旅路

11/65
前へ
/228ページ
次へ
「それで、今日は所長と会う約束でもありましたか?」 「約束はしていない。少し相談があって、会えればいいかなと思ってきてみただけ」  千路はホワイドボードを見た。 「16時戻りか……」  16時まで数十分ある。  曳野が戻るまで、二人きりで過ごさなければならないようだ。 「で、君はどうしてここで働くことになったんだい? どこで兄と知り合った?」 「通っていた探偵学校の紹介です」 「探偵学校? 兄はそんなところに通ったんだっけ?」 「いえ。所長は、行っていません。どこかの探偵事務所で働いて、独立したって言っていました。私の通っていた探偵学校の校長先生とは、仕事で知り合いになったとか」  ウサミミがここにきたばかりの頃に、曳野から、『たまたま歩いていて探偵募集の貼り紙をみて探偵事務所に入った』と、聞いている。  ただし、その事務所はとんでもないところで、すぐ辞めて自分で探偵事務所を開いた。 「そうか……。まあ、その辺は興味ないな」 「千路さんは、所長が最初の探偵事務所でなにがあったかご存知ですか?」 「いや、聞いていない」 「そうですか……」 「よその探偵事務所で働いていたころに、元気がなかったのは気づいていたよ。誰にも何も言わなかったけど、何かあったんだなあと思っていた。ダークな世界みたいだからね、いろいろあるだろうなと思ったんだ」  やはりその時に何かあったのだ。 (弟さんも知らないなら、所長はそのあたりの事情を誰にも話していないかもしれない……)  あまり、詮索してはいけないのかもしれないけど、気になる。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加