184人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、今日は所長と会う約束でもありましたか?」
「約束はしていない。少し相談があって、会えればいいかなと思ってきてみただけ」
千路はホワイドボードを見た。
「16時戻りか……」
16時まで数十分ある。
曳野が戻るまで、二人きりで過ごさなければならないようだ。
「で、君はどうしてここで働くことになったんだい? どこで兄と知り合った?」
「通っていた探偵学校の紹介です」
「探偵学校? 兄はそんなところに通ったんだっけ?」
「いえ。所長は、行っていません。どこかの探偵事務所で働いて、独立したって言っていました。私の通っていた探偵学校の校長先生とは、仕事で知り合いになったとか」
ウサミミがここにきたばかりの頃に、曳野から、『たまたま歩いていて探偵募集の貼り紙をみて探偵事務所に入った』と、聞いている。
ただし、その事務所はとんでもないところで、すぐ辞めて自分で探偵事務所を開いた。
「そうか……。まあ、その辺は興味ないな」
「千路さんは、所長が最初の探偵事務所でなにがあったかご存知ですか?」
「いや、聞いていない」
「そうですか……」
「よその探偵事務所で働いていたころに、元気がなかったのは気づいていたよ。誰にも何も言わなかったけど、何かあったんだなあと思っていた。ダークな世界みたいだからね、いろいろあるだろうなと思ったんだ」
やはりその時に何かあったのだ。
(弟さんも知らないなら、所長はそのあたりの事情を誰にも話していないかもしれない……)
あまり、詮索してはいけないのかもしれないけど、気になる。
最初のコメントを投稿しよう!