一両目 心の旅路

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 やはり誰もいない。  部屋の中が暗いので、電気を点けた。  途端に、部屋に置かれた様々な鉄道グッズが賑やかにウサミミを出迎えてくれる。  所長の曳野鉄は、鉄道大好きな鉄道ヲタク。  それゆえ、「鉄ヲタ探偵」と呼ばれている。  ただし、本人に面と向かって言うと、『鉄ヲタって言うな!』と、怒られてしまうから要注意。 「なんだ、所長、いないのか……」  ウサミミは、曳野がウサミミの女子高生姿を見てどんな表情になるのかとても楽しみにしていたのに、肩透かしを食らった気分だ。  壁に掛かったホワイドボードには、『外出 16時戻り』と殴り書きで書かれている。  曳野は字が上手で、殴り書きでもサマになる草書体で書く。 「まあ、どうせ後で会えるからいいか」  仕方がないので、ウサミミはブレザーだけ脱ぎ、ウサギのエプロンをつけるとモップで床掃除を始めた。  高校に入ったからといって、仕事の手は抜かない。  今まで通りにやる。  それは当たり前のことだから。
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