一両目 心の旅路

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「いらっしゃいませ」 「あんた、誰?」  やや驚いた顔で男は聞いてきた。  まるで、先制攻撃をするような勢い。  しかも、探るような目つきでウサミミを観察してくる。 (なんなの? この人)  失礼だなと思ったが、素性もよく分からない上、曳野もいないので、丁寧に答えた。 「ここで働く所員です」 「所員? 君みたいな子が、ここで何するの?」  初対面の人間に、ずいぶんと不躾な態度をとる失礼な男だ。  最初に感じた親近感は、あっという間にどこかへとんで行ってしまった。 「いろいろです」  細かく教える必要性を全く感じないので、ざっくりと答えた。 「女子高生なのに、ここで働いているってこと?」 「そうです」  ウサミミは客の戸惑いを理解した。 (そうかー。高校の制服の上にエプロンだもの。この恰好で探偵事務所の所員ですって言われても、すごい違和感だよね) 「アルバイトか?」  ウサミミは辟易した。  面倒くさくなったので、「そんなもんです」と合わせた。  それで男はようやく納得したようで、「ここの所長は?」と、今度は曳野について聞いてきた。 「外出中です」 「じゃあ、戻るまで待たせてもらうよ」  堂々と中に入ってこようとするので、ウサミミは慌てて制止した。
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