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「もしかして、あなた、所長とは鉄ヲタ仲間ですか?」
寝台車の名前を言い当てたことから、もしかして曳野の友人かと想像した。
すると、男は憤った。
「俺があいつの鉄ヲタ仲間だって? 不愉快だ!」
「あ、すみません! でも……、それをプルマン・カーだと当てているから……」
「これぐらいの名前は、誰だって知っているだろ」
「プルマン・カーを? いいえ。普通は知りませんよ。だって、アメリカの昔の寝台車ですよ。鉄ヲタ以外で誰が一目で分かるって言うんですか?」
プルマン・カーとは、アメリカで作られた世界最初の寝台車のことだ。
その模型は入手が大変困難で、曳野は特に大事にしていた。
だから、万が一にも傷でもつこうものなら大変なことになる。
「君もよく知っているじゃないか。あいつに感化された? ああ見えて、影響力半端ないからな」
男はニヤニヤした。
どうやら、曳野をよく知っているようだ。
「えっと、あなたのお名前を教えてもらってもいいですか?」
「俺の名は、曳野千路(ひきの せんろ)」
「線路?」
「鉄道線路じゃないぞ。千の路(みち)と書いてセンロ。まあ、もともと線路に引っかけているんだけな」
「線路……。鉄……。もしかして、その顔……」
目の前の男の顔をよく見た。
(この顔に所長の黒縁メガネを掛けたら……、そっくりじゃない!?)
だからどこかで見たような気がして、親近感まで生じたのだ。
「俺は曳野鉄の弟だ」
「わあ! 初めまして! 私、ここで働かせてもらっている宇佐美操です」
ウサミミは慌てて頭を深々と下げた。
ウサミミは、今まで曳野から家族の話を聞いたことがなかった。だから、曳野に弟がいることを知らなかった。
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