死にに行く

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 ギリギリまで追い詰められて、私は社員旅行先隠岐の温泉宿から着の身着のままで逃げ出した。  遺書も告発もなにもしやしない。ウチの会社は余りにも多くのメディアや大手メーカーとの繋がりが濃い。よくも悪くも、なくてはならぬ会社なのだ。多少の欠陥は無視されるだけだ。  しかし。しかしである。その欠陥品のなかで、もがきながら生きているのは生身の人間である。永久機関のようになにもせずとも稼働するものではない。  水が漏れだしているのがわかっているのに、穴をふさぎもせず金魚に観賞用であることを強いるのはあまりにも不憫、いやそもそも非効率的であることに、部下の支配だけがお好みの課長は気づかないらしい。  ……課長だけではない。会社全体がそうなのだ。先達の金魚たちが死体としてプカプカ浮かぶ腐った水がバレないよう、水槽に貼られた下手な桃源郷に、荒波を知らず飼い慣らされた新米金魚は騙され、今年も入社希望者は多いという。  業界最大手の広告代理店に、私が見た夢は、ものの三年で潰えようとしている……自分の命を道連れにして。
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