相原君のアンハッピー・バレンタイン

13/15
前へ
/32ページ
次へ
「……あ、そうだ相原」 ぎこちなく空いた間を断ち切るように、梨香子先輩が妙に明るい声でバッグから包みを取り出した。 「はい、これ。チョコ」 「ありがとうございます」 受け取る時、一瞬近くなった先輩の甘い香りがふわりと小さな風をおこした。 「ごめんね。来年はもっといいのにするから。じゃあ、頑張って」 「あ……お疲れさまです」 何だか急いだような早口で言い終えると、俺の返事も聞こえたかどうか、先輩はどこか硬い笑顔でさっと踵を返した。 コートの肩で綺麗な髪が揺れる早足の後ろ姿を、寂しいような物足りないような気持ちで見送る。 「急いでたのかな……」 いつもより早い退社。 いつもより綺麗な先輩。 きっと今日は彼氏に会うんだ。 先輩の姿が消えると、手の中のチョコを見下ろした。 俺、知ってるよ、先輩。 これ、買い漏れ対策で社食の売店で売ってるやつだって。 決まり悪そうな先輩の様子を思い浮べた。 「そっか……」 やっぱ、数が足りなかったんだ。 そうだよね。 仕方ないよ。 だって俺は、 「相原だから……」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2247人が本棚に入れています
本棚に追加