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「……あ、そうだ相原」
ぎこちなく空いた間を断ち切るように、梨香子先輩が妙に明るい声でバッグから包みを取り出した。
「はい、これ。チョコ」
「ありがとうございます」
受け取る時、一瞬近くなった先輩の甘い香りがふわりと小さな風をおこした。
「ごめんね。来年はもっといいのにするから。じゃあ、頑張って」
「あ……お疲れさまです」
何だか急いだような早口で言い終えると、俺の返事も聞こえたかどうか、先輩はどこか硬い笑顔でさっと踵を返した。
コートの肩で綺麗な髪が揺れる早足の後ろ姿を、寂しいような物足りないような気持ちで見送る。
「急いでたのかな……」
いつもより早い退社。
いつもより綺麗な先輩。
きっと今日は彼氏に会うんだ。
先輩の姿が消えると、手の中のチョコを見下ろした。
俺、知ってるよ、先輩。
これ、買い漏れ対策で社食の売店で売ってるやつだって。
決まり悪そうな先輩の様子を思い浮べた。
「そっか……」
やっぱ、数が足りなかったんだ。
そうだよね。
仕方ないよ。
だって俺は、
「相原だから……」
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