相原君のアンハッピー・バレンタイン

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*** 「はいよーはいよー」 何の緊張感もない低い地声と共に、ポイポイと機械的にチョコを机に放り投げて歩くのは美香先輩だ。 部長も下っぱも同じ扱い、同じ安物チョコなのは偉いけど。 「まるで動物園のエサやりじゃないですか」 配りながら相原君の席までやってきた美香先輩に抗議すると、 「あら、アンタには特別なの用意してたのに。……ほぅれ」 美香先輩がガサゴソと袋から取り出したのは、ベルギーの高級ブランドのチョコ。 箱もデカくて、かなり高そう。 「まさか美香先輩、俺が本命…」 言い終わらないうちに椅子を蹴られた。 「この世に男がアンタ一人でも無いわ。この間のお礼よ、これの」 美香先輩が首元の細い鎖を引っ張って見せた。 前に相原君も協力して注文した指輪を、細い鎖に通して身につけているらしい。 「指に嵌めないんですか?」 ヒソヒソ声で聞くと、美香先輩も顔を寄せて囁いた。 「いつか教えるけどさ。縁故入社組には人知れぬ苦労があるのよ」 「ふーん……」 それでも常に身に付けたいってのが、美香先輩も意外にいじらしいところがあるらしい。
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