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「はいよーはいよー」
何の緊張感もない低い地声と共に、ポイポイと機械的にチョコを机に放り投げて歩くのは美香先輩だ。
部長も下っぱも同じ扱い、同じ安物チョコなのは偉いけど。
「まるで動物園のエサやりじゃないですか」
配りながら相原君の席までやってきた美香先輩に抗議すると、
「あら、アンタには特別なの用意してたのに。……ほぅれ」
美香先輩がガサゴソと袋から取り出したのは、ベルギーの高級ブランドのチョコ。
箱もデカくて、かなり高そう。
「まさか美香先輩、俺が本命…」
言い終わらないうちに椅子を蹴られた。
「この世に男がアンタ一人でも無いわ。この間のお礼よ、これの」
美香先輩が首元の細い鎖を引っ張って見せた。
前に相原君も協力して注文した指輪を、細い鎖に通して身につけているらしい。
「指に嵌めないんですか?」
ヒソヒソ声で聞くと、美香先輩も顔を寄せて囁いた。
「いつか教えるけどさ。縁故入社組には人知れぬ苦労があるのよ」
「ふーん……」
それでも常に身に付けたいってのが、美香先輩も意外にいじらしいところがあるらしい。
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