第2話 神主の日常

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「なあ、成川ー」 「なんだー?」 午前は「四垂(しで)」を作る。 四垂とは、神社の注連縄(しめなわ)玉串(たまぐし)についている雷のような形の白い紙だ。 紙なのですぐに汚れて破れやすいので、たくさん作る必要がある。 作り方は簡単、白い紙をで四垂切包丁(しできりほうちょう)と呼ばれる専用の包丁で切るだけ。不器用さんも安心の工作業務だ。 「そういえば、朝に祿郷さん見てないよな。今日研修を担当してくれるのに」 「んー?……そういえば見てないなぁ」 「寝坊か?いや、そんな風に見えないけどなー」 此処の神社の規模はそんなに大きくない。 有名な観光神社では、神主だけで50人くらいいるが、ここはたったの11人。この人数でもそこそこ大きい方に入る。 そんな田舎神社なのに、ここはすごく人気なのだ。毎年50人は受けにくるとか。倍率はどの神社よりも高い。 そして、なぜ俺が受かったのかわからない。成績も、身分も平平凡凡に近いのになぁ。 「──手を止めるなよ」 「あ、悪い」 不意に聞こえた声に、俺の意識は現実に戻る。 その声の主は一緒に作業していた同期、立花 光毅だ。 じろりと俺を睨み、また自分の作業に視線を移す。 この男は、第一印象から俺の苦手なタイプかもしれないと思っていたが、やっぱり合わないようだ。 真面目なのはいいことだけど、硬いというか、陰険そう。一緒にいても面白くないんだよなー。 そんなことをつらつらと考えていたら、ふと静かな部屋にオルゴール音が響いた。 「もうお昼か」 「ほんとあっという間だな」 12時から13時までは休憩時間だ。 お弁当が支給されるので、手が空いたものから各自昼食をとる。 午後からも、ご祈祷番以外は自分の仕事に戻る。 神社は祭事やイベントは殆ど午前中に入る為、午後からの方が手が空くことが多い。 それにより、俺達の研修も午後から行われるのだ。
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