第2話 神主の日常

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理屈はわかる。わかるのだが─── 「やべ、脇腹痛い」 「食べてから走るのはきついー」 「お、喋る余裕があるのか?あと、1周追加」 今日の研修は、実技4時間、座学1時間。 いや、待って、普通は座学が先だろう。 実技はご祈祷から邪気祓いまでなんでもできるように、この半年で作法を詰め込まれるらしい。 「それで何で走ってるんですか…!」 「健全な精神は健全な肉体に宿るからだ」 「走ってることに全然繋がらないんですけど!」 今日の地獄のトレーニングは、足場の悪い山道を3周。 高校までは運動部に所属していたので、体力に自信はあったが、さすがに4年のブランクはきつい。 3人でほぼ競争するように走り、俺は2位だった。とは言っても、3位の成川とはほぼ同着だったが。 俺と成川は走った後、立てずに地面に座り込んでいる。しかし、立花は汗をかいているものの、表情は余裕そうだった。 「立花は余裕そうだな」 「余計な会話をしなければ、余計な体力は減りませんので」 「腹立つなー。なんでそんな言い方しかできないんだよ」 「すべての事に意味はある。走ってるだけでそんな文句しか言えないなら、邪気祓いなんて到底先だな」 「あ?」 くそ、やっぱりむかつく。 常に上から目線で、常に人を見下している。こういう人間は嫌いだ。 疲れていることも合わさり、頭に血が昇るのを理性だけでは抑えきれない。 怒りのまま大股で立花に近づこうとするが、そんな俺の腕を祿郷さんが掴んだ。 そして祿郷さんは二重瞼をすっと細め、俺達に打ち据えるように言い放った。 「怒るな、とは言わないけど、立花も間違ってない。ただ、言い方は悪い。立花も同期と仲良くする気がないなら上に報告するからな」 「っ、すいません」 「……すいませんでした」 「犀葉、表情と言葉が全く合ってないぞ」 祿郷さんに苦笑されつつそう指摘されても、早々怒りは抑えられない。 しばらく片頬を膨らませていると、楽しそうに成川に指で潰されてしまった。 「じゃあ、続き。階段駆け上がり5往復」 うえ、と出そうになる声を飲み込む。 また立花に見下されたくない。もう負けたくない。 必ず勝ってやる。 「参拝者にあったら必ず立ち止まって笑顔で挨拶すること。よーい、どん」 ───今度こそ負けるか!そう思って俺は全力で駆け出した。
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