第2話 神主の日常

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「よっしゃ、いちばーん!」 「今度は成川が一番か。次は──…同着か」 今度は成川が一番だった。 速さ的には立花だったのだが、参拝者に「笑顔で挨拶」ができていなかったので1週追加。 俺は逆に参拝者に挨拶をしたら、持ち前の人当たりの良さが裏目に出てしまい、世間話に付き合うことになり出遅れた。 参拝者に罪はないのだ。無下にはできないからな。 ゴールした瞬間倒れこみ、体全体で空を仰ぎながら呼吸を整える。 太ももと膝が震えている。もうこれ以上は無理だ。もう走れない。 「ほら、立て。次は座学だ」 「なにするんですか?」 「今日は宮司と個人面談だ」 残り1時間は宮司さんと個人面談だそうだ。 本日宮司さんが帰ってくるのが夕方だったので、その時間に座学を合わせたらしい。ああ、納得。 1人20分。待ち時間は大学ノートに今日学んだことを書いていく。 俺は3番目なので、一番最後だった。 「終わった。犀葉」 「ああ」 2番目の立花が出てきて、次に俺の番。 研修部屋から宮司さんの部屋は同じ建物である社務所の中にある。 歩いて1分ほどで部屋の前に着いた。 そして、ノックを3回。 待っているとすぐに「どうぞ」と声が聞こえた。 「失礼します。お疲れ様です」 「お疲れ様です。さあ、どうぞ座ってください」 宮司さんの部屋は謂わば校長室のような感じだ。 部屋の奥に宮司さんの作業机があり、その後ろには壁一面の本棚に隙間なく本が詰まっている。 机の前に3つのソファと木のテーブルが置かれている。 1人用ソファが2つと2人用ソファが1つだ。 宮司さんが1人用ソファに座っていたので、2人用ソファに座った。 「犀葉くん、ここでの生活はどうかしら」 「はい、仕事内容はまだまだですが、この土地には慣れてきました」 「良かった。わからないことがあったら遠慮なく聞いてね」 「はい、ありがとうございます」 ああ、やっぱり優しい。天使だ。疲れた身体も癒される。 わかってはいたが、神主は殆ど男だ。 神社は男しかいない。巫女がいる神社もあるが、ここは少ないらしい。 女の人に飢えている中、大輪の花のような美しさの宮司さんには本当に癒される。俺の動力源だ。
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