第2話 神主の日常

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「今日は犀葉くんにこれを渡したくて来てもらったの」 「……お守り、ですか?」 すっと綺麗な指で机上を滑るように出されたのはお守りだった。 3cmくらいの桃色の布で、桃華八幡宮の家紋が入ったお守り売り場でも売っているようなお守りだ。 「手に取ってみて」 言われるまま手に取ってみる。 裏を見ると、犀葉と金色で縫われていた。 すごい、世界にただ一つ、俺だけのお守りだ。 「どう?」 「すごいですね、この文字!俺の名前じゃないですか」 「ふふ、犀葉君の名前を入れたの。これは貴方を守るための物だから、どんな時も必ず持っていてくださいね」 「はい!ありがとうございます」 うわぁ、なんか桃の香りまでするし。 なんかアロマセラピーみたいな感じだ。癒される。 大事にしよう。そう誓い、俺は作務衣のポケットにそのお守りをそっと入れた。 夜 7時 俺は寮の自分の部屋にいた。 寮といっても、会社が借りている賃貸アパートだ。 アパートはいくつかあり、俺が108号室、成川が103号室、立花が101号室だ。 部屋は1DK。広さは8畳ぐらい。お風呂とトイレは別だ。 他の職員は別のアパートに住んでいるらしい。 「あ、帰りに買い物に行く予定だったのに、忘れてた」 冷蔵庫を開けて絶望。 何も飲み物が入っていなかった。具体的に言うなら、食べ物はあるが、飲み物がない。 お茶を沸かせばあるのだが、今日は炭酸が飲みたかった。 「買いに行くか」 財布と携帯だけをポケットに入れて、俺はアパートを出た。 コンビニは俺の寮から歩いて10分のところにある。コンビニの周辺は市街でもある為、お店や住宅地が並んでいる。 とは言っても田舎の為、夜遅くまで営業している店は少ない。 まあ、俺の大学も田舎だったので、あまり此処と変わらないのだが。 そのせいか、夜目も効く方だ。 「 ───ねぇ 」 ぞくり。 後ろから聞こえた声に、一瞬にして背中が凍り付く。 4月でまだ肌寒い季節ではあるのだが、一瞬にして俺の全身の毛が逆立つ。
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