第19話 研修会―壱日目 夜―

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「じゃあ、立花さんの…」 「立花?」 そう首を傾げて、立花に視線を向けると、立花が珍しく俯いていた。 いつもなら「なんだよ、睨むな」とでも言いそうなのに。 すると、津堅は立花をじろじろ見て、見下すように鼻で笑った。 「ああ、キミのいろんな話はよく聞いてるよ。会えて良かった。よろしく」 「あ?」 「おい、やめろって」 怖い顔をしたまま津堅に歩み寄り始めた立花の肩を掴むが、すぐに払われてしまった。 しかし、諦めずにもう一度肩を掴んだら、今度は引いてくれた。 それにほっと息を吐く。こんなところで喧嘩をしたらほんとにマズイ。 そんな俺達を見て津堅は、にやりと笑みを深めた。 「桃華八幡宮って言ってもたいしたことねぇな。式神もまともに使えないのに、よく邪気祓いの一宮(いちのみや)なんてよく言うよな」 「それも楓彩八幡宮に譲ったらいいのにな」 「一宮」というのは、その地域、環境で一番格が高い神社を意味する言葉だ。 つまり、桃華八幡宮は、邪気祓い界での一番大きな神社ということか。 へえ、人気も出るわけだ。そう他人事のように納得した。 そして、目の前の男達を見る。神主なのに、なんて小さい男なんだろうか。小学生かっつーの。 「……よくわかんねぇけど、お前らみたいなのが一宮にいたら、神社界も世の末だな。神主として、見本になる器じゃねぇもんな」 「なんだと?」 「あーはいはい!人の神社の悪口を言うのは終わり!こんなとこでもめてどうするんだよ!」 俺の言葉に、小さく笑ったのは立花だ。 それと同時に、楓彩八幡宮の男達が睨んでくる。 それを止めたのが成川だった。 「せめて場所を変えてくれ」 「はは、成川、悪いな」 「……チッ、とりあえず、此処から出るぞ」 成川の一言で我に返った俺達は、半端駆け足でその屋敷から出た。 眠ったままの青山は、相良が背負っていく。 先に楓彩八幡宮の奴らが行くので、ついていっているようで、少し不満だったが、仕方ない。 帰り道は一緒なのだと自分に言い聞かせて、俺達は再度裏口からこっそり中へと入る。 そのまま各部屋へと向かった。 もーいいかい まーだだよ ふふっ もーいいかい ――もういいよ はやくボクをみつけてね 第19話 了
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