第20話 研修会-弐日目 朝―

2/9
前へ
/344ページ
次へ
川のせせらぎのような軽快な音楽が流れ始める。 誰のアラームだよ、と思いつつ、俺は腹筋で上半身を起こした。 2段ベッドの上から、下段にいる2人を見下すが、音楽は俺がいるところより上から聞こえていた。 不思議に思い、視線を上げると、部屋の入口近くに、放送用のスピーカーが設置されていた。 「……おはよ、犀葉、立花」 「おー。おはよう」 「おはよう」 どうやら、この施設の全体のアラーム音らしい。 時計を見れば、時刻は5時。 いつもと一緒か、そう思いながら2段ベッドの上から降りる。 昨日は、あの一件の後、部屋に帰ってきた俺達は、改めて自分達の体に霊触がないか確認後、就寝し、次の日を迎えて今に至る。 (……あいつら、大丈夫だったかな) 川のせせらぎのアラームで起こされた俺は、施設の共同洗面所で顔を洗い、歯を磨いていた。 泊まる階の両端に設置されている共同洗面所なのだが、今は俺1人しか使っていない。 施設のアラームが鳴ったと思えないほど、人気がなく静かだった。 この階には俺達以外の人もいるはずなのに、声も聞こえない。変なの。 そして、口には出さないが、頭の片隅では、あの霊が言っていた言葉がずっと気になっていた。 ―――『かくれんぼ』、スタート 耳にこびりつくあの声。 思い出すだけで、鳥肌がたつ。 それを拭うように、頭を左右に振り忘れようとする。 両手で水を掬い、口に含んで吐き出す。 そして、自身のタオルで口を拭きながら鏡を見て、ぎょっとした。 この階には、廊下の両端に共同洗面所がある。 数個の水道に、一枚の大きな鏡だ。 その間には、数個の部屋と、上下階に上がる階段がある。 その階段がある場所から見えたのは―――腕だ。 顏は壁に隠れて見えないが、おそらく男の腕が、上下に揺れていた。 通常であれば「バイバイ」と捉えてしまいそうだが、どちらかというと俺に存在を示すように「来たよ」と表現しているようだった。 今度は体ごと振り返ると、そこには何もなかった。 そのまま走り出し、階段を繋ぐ道へと出るが、案の定誰もいなかった。 「……くそっ」 吐き捨てるように言う。 やっぱり、宣言していた通り、あの霊はこの施設に入ってしまったのか。 璃音は霊体なので入れないが、この『此の世ならざるモノ』は人に憑りつくことで入って来れるのか。 しかも、悪意もある分、タチが悪そうだ。
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1540人が本棚に入れています
本棚に追加