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「犀葉さんですね?」
「はい!」
部屋の中には5人の男がいた。
右手側には、学校でも使うような長机が置いてあり、そこには2人の青年が座っている。
緊張するように俺を見つめるので、雰囲気的に俺と同じ新入社員という感じだろうか。
左手側には、残りの3人だ。1人は俺とあまり年が変わらなそうな青年で、黒髪の短髪で黒縁眼鏡。
残りの2人は40代くらいの人だった。片方は黒の短髪で細い銀縁の眼鏡をかけ、もう1人はスキンヘッドの男性だ。
そのスキンヘッドの男が、書類と俺を見比べながら言葉を発した。
「全員揃ったようだな。その席に座ってくれ」
男が指さしたのは、俺から見て右側の端の席だった。
言われるがまま長机のパイプ椅子に腰かける。
俺が椅子に腰かけたのを確認し、銀縁眼鏡の人がゆっくりと話し始めた。
「ようこそ、桃華八幡宮へ。合格おめでとう。私は、瀬田 徹。役職は禰宜だ。隣は、」
「私は、柴崎 篤だ。同じく禰宜だ」
「僕は祿郷 稜。権禰宜です。よろしくお願いします」
「この3人で君達の研修を進めていくからよろしくね」
禰宜や権禰宜というのは神社で呼ばれる役職を指す。
禰宜さんのうち1人は厳しそうな人だが、残りの2人は優しそうだ。
柔らかい笑みでそう話す禰宜――瀬田さんに、少しだけ安心する自分がいた。
やっぱり未知なる環境には緊張するし、不安も出てくる。それが、少しだけ和らいだ気がしたのだ。
「じゃあ、君達の自己紹介もお願いしようかな。自分の名前と簡単な自己紹介をしてね。僕から見て左から行こうか」
ゲッ、俺じゃねぇか。
全員の視線が俺に向き、俺は脳をフル回転させて内容を考えながら立ち上がる。
身体を少しだけ左側に傾け、ゆっくりと言葉を発した。
「僕は、犀葉 瑛です。実家は滋賀県です。えー、……よろしくお願いいたします!」
最後に一礼し、席に着く。
つい大学生のノリを思い出して何か面白いことをしなければと考えてしまい、結局変な挨拶になってしまった。
あー、完全に変な奴と思われた。言葉にも詰まったし恥ずかしい。
1人で頭を抱えて落ち込む俺を見て瀬田さんは小さく笑い、その視線を俺の隣の席へと移した。
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