1157人が本棚に入れています
本棚に追加
/286ページ
" 一期一会 "
一生に一度しかない出逢い。
「私達神主にとって、神社に来てくださる参拝者は同じですが、参拝者にとっては神主はその時貴方だけです。来てくださった方、一人ひとりを導けるように、見本になる言動を日々心がけてくださいね」
「はい」
透き通る綺麗な声は、俺の耳から心へと染み渡るように入った。
「一期一会」よく聞く言葉だが、意味をしっかり理解すればなんて良い言葉だろう。
うんうん、俺の座右の銘にしようかな。
そう一人で勝手に頷いていると、ふと白い何かが俺の前に落ちてきた。
――くぅん
狐、だろうか?
白い毛並みに、赤の紋様、くりっとした目は小動物を連想させる。
「うわっ?!」
「いや、反応遅いでしょ」
3秒ほど小動物としっかり見つめ合ってから驚いた俺に、祿郷さんは笑う。
その小動物は、再度小さく鳴くと机の上を走り、宮司の元へと戻った。
「……狐、ですか?」
「いいえ、イヌよ。案内役をさせていたと思うけど」
「えっ?!」
さっきのイヌ?!
記憶を辿ってみると、身軽に走りまわり、戸の前ですっと消えたあの動物に似ていた。
悪い感じはしなかったが、"生き物"ではないだろう。
「えーっと、この生き物って…」
「今時の言葉で表現すると、使い魔ってところかしら。まだ説明の途中だったの?」
「邪気祓いに関してはまだしていませんよ。それに、犀葉くんは"知らない側"の人でしょう」
「ああ、そうだったわね」
犀葉君"は"ってことは、あとの2人は知っているのだろうか。
疑問に思い隣を見ると、立花は俺をちらりと見ただけで、成川はうんうんと頷いていた。
俺の頭の上には「?」の疑問符しか出ていない。まったくわからない。
そんな俺に柴崎さんが説明をしてくれた。
「簡単に言うと、この神社の"邪気祓い"は除霊等も兼ねている」
「……除霊って幽霊を祓うってことですか?」
「簡単に言うとそうなる」
うわー、なんかすごい神社に来てしまったみたいだ。
関わるとろくなことがなかったから、今まで見えないふり、聞こえないふりのオール無視を決め込んでいたのに。
だけど、視える俺が選んだってことは、コレも何かの縁なのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!