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店の後片付けをした後、お隣の佐藤さんが、知り合いの農家からいただいたからと、大量の林檎を持ってきてくれました。
そのあとは、世間話が長引いてしまって、夕食を食べて、お風呂に入って、就寝。
目を閉じる瞬間、そういえば、イズミに電話するのわすれていたな、と気づいたのです。
明日の朝一番にかけよう。
忙しい朝だから、嫌がるだろうけど、でも、そうしないといけないような予感がしたんです。
翌朝、目が覚めて、一番に娘に電話をかけました。
案の定、慌ただしい朝ですから、娘の態度は、そっけないもので…
でも、急に、泣きだしたんです。
理由は、わかりませんが、ああ、やっぱりそうなんだと、どこか納得もしました。
ずっとずっと、我慢して、ひとりで頑張ってきたのでしょう。
弱音を吐ける相手もいなかったのでしょう。
ギリギリまで、我慢した涙が、堰を切ったかのように溢れだしたのでしょう。
「…帰ってきなさい」
夫が亡くなった時、帰ってくると言ってくれた娘には、言えなかった言葉。
今、言うべきだと思いました。
「…でも」
「でも、じゃない。いいから、帰ってきなさい」
「迷惑…かけ…ちゃうし…それに…みっとも…ないし…負けたような…気がする…」
電話越しの娘は、子供のようにしゃくりあげていて、言葉がうまく聞き取れません。
「面倒な事は考えなくていい。実家の母が倒れました。だから、帰ります。それでいいでしょ」
「…そんなの、嘘じゃん…」
「嘘ついても、ずるしても、帰ってきてほしいって言ってるの。全てを母のせいにしなさい」
意地っ張りな娘が、ようやく頷いてくれました。
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