あるいはあの枝から

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帰ってきた娘は、どこか照れくさそうな表情を浮かべていました。 「ただいま」 「おかえり」 以前、会った時よりも顔色は悪く、痩せていました。 どこか目もうつろで、荷物を置いた娘は、しばらく何もない空間を、ぼんやりと眺めていました。 「どれくらい休みとれたの?」 そんな娘に声をかけます。 「とりあえず、一週間かな」 「そう、まぁ、ゆっくりしていきなさい」 私は台所へいき、娘の好きな筑前煮を作ることにしました。 里芋の皮をむいていると、イズミがやってきて、 「手伝うよ」 そう言って、人参の皮をむき始めました。 こうやって、台所に並んで料理をするのは、何年ぶりでしょうか。 人参の皮をむく、骨ばった娘の手を見ると、涙が出そうになってしまいました。 「…痩せちゃって…ちゃんと食べてるの」 「食べてるよ。忙しいから、ほとんどコンビニ弁当なんだけど」 「だめじゃない」 「そうなんだけどね、自炊してる時間あったら、眠りたいからさ」 「そう」 「お母さんこそ、白髪増えたね」 私の髪の毛をまじまじと眺めるので、恥ずかしくなってしまいます。 「やめてよ」 「明日、白髪染めてあげようか」 「いいの?」 「いいよ、それくらい」 私は嬉しくなって、思わず笑顔になり、里芋の皮を急いで剥き始めました。 すると、つるりと手からこぼれおちて、ころころと台所の床を転がり、私はそれを追いかけます。 娘がおかしそうに笑っていました。
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