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娘が帰る日。
私は、店を抜けだして、駅まで送りに行きました。
改札口の前で、
「ありがとね」
イズミは、私に笑顔でお礼を言いました。
一週間前に帰ってきた娘とは、別人のように表情は晴れやかでした。
「もう、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫」
強がっているのかもしれません。
このまま帰していいものなのか。
私は、風で乱れた娘の長い髪の毛を、指で梳かして、耳にかけてやりました。
小さな子供にするようにです。
「イズミは意地っ張りだからね」
すると、娘は急に、私から目を逸らしました。
唇を噛んで、泣くのをぐっと堪えているようにも見えました。
自分より、少し背の高いイズミ。
私は、ぐうっと背伸びをして、そんな娘の頭を優しく撫でてあげます。
あと少し、もう少しだけ、このまま一緒にいたい。
それが、本音です。
帰したくはありません。
だけど、私には、娘を縛り付ける権利などないのです。
私達は、新幹線が発車するギリギリの時間まで一緒にいました。
「…もう、行くね」
やがて、イズミは、決心したかのように、私を見ました。
「いってらっしゃい」
私は、そんな娘の肩を力強く叩きます。
「いってきます」
改札口を通るイズミは、振り返ることはありませんでした。
でも、大丈夫。
離れていても、私には、娘の声が聞こえますから。
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