あるいはあの枝から

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新幹線の隣の席には、幼い女の子と、その母親と思われる女性が座っていた。 長旅で疲れていたのか、ふたりは、寄り添いながら目を閉じている。 母親は、時々目を開けては、娘の様子を確認して、優しく頭を撫でていた。 私の頭にも、母親が撫でてくれた手の感触がまだ残っている。 そのあたたかさを思い出し、頬が緩んだ。 ふたりは、私が降りる前の駅で下車した。 再び新幹線が走りだしたとき、娘が座っていた席に、落し物があった。 それは、親指の爪くらいの小さなもの。 指でつまんで拾い上げる。 クジラのマスコットだった。 よく見ると、目が垂れ下がって、泣きそうな顔をしている。 泣き虫のクジラ。 私はそれをバッグに忍ばせる。 ひとりぼっちでここに残したら、さみしくて泣いてしまうんじゃないかと思ったから。 新幹線の窓から外の景色を眺める。 残雪が残り、まだ眠ったままの、寒々しい田んぼの向こうに、冬枯れの木々が整列していてるのが見えた。 空と陸の間のつっかえ棒。 新幹線のスピードに任せて、それを一本一本、蹴り飛ばす。 柔らかな羽毛のような雲の隙間から、陽の光が甘いドロップとなって、ぽろぽろこぼれた。 それを両手ですくい、ポケットに入れる。 溢れるくらいに。 まばゆい、まばゆいね。 大丈夫、大丈夫って、思いたい。
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