あるいはあの枝から

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アラームの音で目覚める。 ついさっきまで、とても幸せな夢を見ていたような気がするのに、この現実味のあるアラーム音で、一瞬にして忘れてしまう。 さあ、今日も、戦え、戦え。 そう、せかされているような気がしてならない。 戦う?何と? 私は、一体、何に勝とうとしているの。 顔を洗い、キッチンへ行くと、寝る前に炊飯器のスイッチを入れ忘れていた事に気付いた。 今朝は、あたたかい白米を食べる事が出来ない。 それだけで、気分が落ち込む。 とりあえず、電気ケトルでお湯を沸かす。 あたたかいスープでも飲もう。 粉末のインスタントだけど、それでもいい。 少しでもあたたまる事が出来るなら。 お湯が湧くのを待っている間、部屋のファンヒーターのスイッチを入れて、温風にあたりながら、今日の仕事について考える。 昨日、メールで提出した報告書の返信が本社から来てるはずだから、まずは、その対応をして、それから… お湯が沸いた。 マグカップにスープの粉末を入れて、熱湯を注ぐ。 昨日、書面にした引き継ぎを、再度、スタッフに周知させないと、また同じクレームが発生してしまう。 だから、今日は、改めてひとりずつ… そんな事を考えながらだったので、熱湯がマグカップの淵ギリギリまで注がれ、今にも溢れそうになっていた。 あわてて、手を止める。 その瞬間、携帯の着信音。 画面には、職場の電話番号。 「はい」 「おはようございます。朝早く、すいません。今日は少し早く来れませんか?昨日のクレームの件で問題が…」 早めに出社していたスタッフからの電話だった。 「わかった。なるべく早く行くね」 電話を切り、マグカップを手に取る。 その瞬間、ギリギリまで注がれた熱湯が溢れてこぼれた。
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