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あの後。他の店にもコインが使えないか聞いて回ったが、どこの店も「モル」という通貨しか扱っていなかった。
「はぁ、そろそろ喉の渇きが限界だぞ・・・。もう水道水でいいから、誰か飲ませてくれないかなぁ」
水を求めふらふらと歩いていると、噴水のある広場に辿り着いた。
今、谷口志郎は、人生で一二を争うであろう程に葛藤している。
己の喉の渇き。そして、目の前には水が無限に溢れてくる噴水。
「水、水だ・・・」
ゴクリッと固唾を呑む。あの水を飲みたいッ!少しで良いッ!口いっぱい程度でいいッ!
・・・それ以上はお腹を壊しそうで遠慮したい。どう飲む?そっと近づき、顔を突っ込んで飲むか?いや、それじゃあ変な人に見られるッ!!それはいや・・・だ?
「いや、何も嫌がることはないじゃないかッ!どうせこいつら全員NPCだろう!?恥ずかしがる理由なんてないッ!!」
あのときは頭に血が上っていた。噴水に顔を突っ込み、無我夢中で水を飲んだ。
・・・知らなかったんだ。あそこの水が、この町の人にとって神聖な水だったなんて。
「あの、本当に知らなかったんです。すみませんでした」
腰の曲がったお爺ちゃんに土下座をしている少年が一人。そう、私だ。
口では反省と謝罪の言葉を出しているが。内心、納得がいかず「どうしてNPC風情に土下座を強要されなくてはいけないのか?」と不満でいっぱいだ。
「うむ。そこまでの謝意を水神様に示せるのなら。きっと水神様も許してくださるであろう!」
水神様。お爺ちゃんのとてもありがたーい説法によると「こんな荒野にある町が繁栄することができたのも、全て水神様のおかげ」らしい。
無神論者の俺としては、神様の御蔭でーなんて、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。
「出口!!出口どこだあああああああ!!??」
狭い洞窟に、志郎の絶叫が響く。志郎の後ろからは、全長1m程の黒い物体が志郎を追いかけていた。
なぜだ!?どうしてこうなる!?あの爺、法螺吹きやがったな!?なにが「水神様に保護された領域で、とても安全な場所」だ!?
滅茶苦茶、好戦的な黒いゲル状の化け物がいるじゃないか!?しかも沢山!数えるのも嫌になるぞ!?
「ああああ!!!!神様助けてええええええええ!!!」
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