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お花見は、学校から割と近い場所だったし。
彼女の事は嫌いじゃないし。
それに私もやっぱり、春の陽気に浮かれていたのだろう。
そんな理由で、花を見て帰る事にした。
30分程黙々と歩いた。彼女は英語の成績が振るわなかった事を告白したり、この春から花粉症になって困った事を話してくれた。
遠くから桜の木が咲き誇っているのが何本も見えた。
とても広い公園だった。こんな場所が東京にもあるのだと感心した。東京で暮らしていても、学校と下宿先との往復だけでは知らないのも当たり前だった。
「どう夏樹ちゃん、綺麗に咲いているでしょ」
遠くから見れば柔らかそうなピンクの綿飴みたいで可愛いらしい様相も、見上げる程の間近だと、淡いサクラ色の花びらの少しずつ降り注ぐ様が物悲しくもある。その一つを摘み上げると奥ゆかしく薄らと桃色に香った。
「うん、見事だ」
故郷の田舎でも、毎年桜が咲いていた。ここと同じ様に。
「良かった。私ここ好きだから、夏樹ちゃんにも見せてあげたいなって思っていたんだ」
「え、そうなんだ。あ、ありがとうございます」
自分の気持ちを言葉にするのは、少し恥ずかしい。
「そんな、かしこまらなくていいよ。夏樹ちゃんて、ちょっと、その、変わってるって言うか、不思議だね」
つい俯いてしまった。
私は正真正銘人間だけど、人とのコミュニケーションは苦手だ。相手が何を考えているのか分からない代わりに、こちらには干渉しないでいてくれるのは有り難かった。
伝われば良いってモノじゃないから。
「あ、ごめんなさい。ちょっと皆と違うってだけだし、私だってクラスで浮いている存在みたいだし、個性って大切にした方が良いと思うし、…気にしちゃった?」
「ううん。大丈夫よ」
笑顔で応えた。
すると、佐々木さんは、ホッと息を一つ吐いた。
「夏樹ちゃんにもう一つ見せたい物があるの」
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