大都会の友達

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それは、大きな桜の木だった。 「ああ、残念だな。去年はこの木、とっても綺麗に花を付けていたのに。今年はまだなのかな」 済まなそうに、彼女は言った。 存在感ある枝葉に歴史を感じる。 かなりの年代物の木と言うのが分かった、朽ちかけた枝が、自重で所々折れていた。そして、花は一つもついていなかった。 「でも、分かるよ。凄いね、この桜の木」 「うん、私この木が大好きなの。それに幹に触れると何かパワーを貰えるようで」 彼女は照れながら言った。 「ね、私も少し変わってるでしょ」 確かに、私の知る人達とは少し違う。 彼女は、この老木に宿る力を感じているのだろうか。 彼女が、幹に近寄って行く。 「佐々木さん、待って。人が居るよ」 「え」 彼女は立ち止まり、辺りを見回して、怪訝そうに言った。 「人って、どこに?」 「ほら、木の根元に、おじいさんが…」 「どこにも居ないよ」 私は驚いた。 東京に引っ越してから、そんな事は一度も無かったから。 都会には居ないと思い込んでいた。 妖怪の存在感なんて。 言葉を無くした私を無視して、佐々木さんは幹に手を添えた。 彼女の足元には、見えないおじいさんが寝転んでいて、彼女の事をしげしげと見上げていた。 スカートの中。 「あっ、ダメ、佐々木さん行こう」 私は慌てて、彼女の腕を掴んで幹から引き離した。 「どうしたの、いきなり」 「ご、ごめん、そ、その…」 説明出来なかった。おじいさんの姿は彼女には見えない。 私が何を言っても、多分信じてもらえない。 それは何度も経験していた。
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