大都会の友達

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それから一週間が経った。 「凄いな」 鮮やかな桜色の花が、その古い幹から伸びた枝の全てに咲き誇っていた。 見上げると、花越しに見える黒い枝のコントラストが幻想的で、吸い込まれるように強く惹かれてしまう。 精一杯、美しく在ろうと生きていた。 儚く、花弁が降りそそぐ。 「最後の力ね」 この古い桜の大木はもう死ぬんだ。  「ああ、ありがとうよ、人間の娘」 おじいさんは根元に座り込んで俯いたまま応えた。 弱っていると思った。 「これであなたの、お願い事は叶えられたわね」 「…そうだな」 そう、おじいさんの願い事は叶った。 「だけど、もう一つあるの」 何の事かと、おじいさんは頭を持ち上げ私を見た。 「この木を切り倒すの」 「な、何を言っとるのだ、切り倒すだと、お前にそんな事が出来る訳がない」 「そうね、だから役所に言ったの、朽ちた枝が折れて危ないからって苦情をしたの、そしたら直ぐ対応してくれて、切って貰える事になったわ」 おじいさんは立ち上がり、私に詰め寄った。 「なぜだっ」 そして胸ぐらを掴まれた。手の皮膚が真っ赤になっていた。
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