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「しかし──…万が一、マナミ様の帰国後にザイード様が何らかの行動を取られた際……賭けは私の勝ち」
「──…っ」
アレフはそう言って往復券の一枚を手にして愛美に見せる。
「こちらへ往復のチケットの半券を私に“手渡しで”返して頂きたい──…宜しいですね」
「………」
有無を言わせず見つめてくるアレフに愛美はゴクリと唾を飲んだまま、小さく“はい…”と返すしかなかった……。
アレフはその声を確認してにっこりと笑った。
「それで宜しい──…では私はこれで」
アレフはソファから腰を上げる。そして居間を出る前にくるりと振り返った。
「ああ、そのチケット…日本行きの飛行機の予約が二日後になってございます」
「……っ!?…え」
「どうぞ忘れ物はなさらぬよう帰国の準備をお早めに」
「───」
アレフは居間のドアを開けながらまた何かを思い出したように振り返る。
「ああ!そうそう。手土産は万華鏡なる物が私は欲しいですな。一度見てみたいと思っていたところでございました──…それではマナミ様、今夜はゆっくりお身体をお休めください」
「……っ…」
放心状態の愛美に会釈をすると、アレフは笑顔を向けて大きな居間のドアを閉めていた。
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