190人が本棚に入れています
本棚に追加
・
「アレフ……」
王は上を仰ぎ目を閉じて静かに呼び掛けた。
アレフはその声に耳を向ける。
「今のままの国ではいかんのだろうか──…」
王は問うた。
「余が善かれと思うてしたことは……民には余計なことだったのではと…ふと思うのだ……」
「そんなことは御座いませぬ──…民は皆、貴方に感謝している」
「そうか……ならば良いのだが……」
王は仰いだ首を今度はうつ向かせ下にあった自分の手を眺めた──
その左の中指には王家の紋章が彫り込まれた金の指輪が輝いている。
右端の上に太陽、左端の下に月──
その真ん中に翼を広げた隼の姿。
黄金の太陽と金色の月、どちらも暁をイメージする。その二つを支配する隼はムスターファ家一族が代々受け継ぐ家紋──
王はそれを上にかざすように眺めた。
「余はこの隼を支配する者と思うたことは一度もない──」
王はぽつりと口にした。
「太陽は月に生かされ──…そしてまた月も…太陽なしでは輝けぬ……隼はその間を行き交う二つの星から恩恵を受けた者──」
「………」
「余はずっとそう思うてきた……」
かざした指を膝に置きその紋章を大事そうに指先でなぞる。
最初のコメントを投稿しよう!