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ほんの一時の会話を済ませ、アレフは王の居室を後にした。
久し振りに見た笑い顔に少しホッとする。緩やかな笑みを浮かべて壁画の通路を歩くアレフの足がふと止まった。
城へ着いたことを連絡入れた際、先に陛下に挨拶に行くと伝えたアレフの元へターミルが足を運んでいた。
「王は何か言うとったか?」
「……今日はまた色々と話された…」
「ほう…」
アレフの応えにターミルは一言だけ漏らして顎をさすった。
「今までのご自分を振り返って色々と考えたようだ」
「また何を」
「自分のしたことが間違いではないかと──」
「………」
ターミルは顎髭をわしゃわしゃと揉んで黙る。
そしておもむろに口を開いた。
「民が──…生き甲斐を感じやすいようにと王はしたまでだ……国を動かすのは王。だが……国を造るのは民だ──」
「その通り──」
「民の底力を信じて王は尽力を奮った──…貧困に陥らぬよう富裕層からの強制的な支援の義務化……富裕層が一般の民に銭を撒く変わりに王が富裕層の事業を支える──…
その仕組みが円滑に回るよう、王も奔走した筈だ…まるで水辺の白鳥。見た目は優雅に見えたとて水面下ではその身が沈まぬよう必死に水を掻いて浮いてる──…そのツケはしっかりお前に回ってきていたはずだわい」
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