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“もうっ…見逃してくださいっ”
「……っ…」
愛美の放った言葉がザイードの胸の奥を突く──
「──俺では無理だ…っ…幸せになどしてやれないっ…」
幸せにできる自信もない──
ないのに手離すことがこんなにも苦しい──
神が与えた罰は重すぎる。
これ以上胸を裂くような痛みを俺は知らない──
ただ一つ愛美にしてやれること…
幸せになれるよう祈り愛美を遠くから見守る
ザイードは胸に誓いながら喉の奥を震わせる。
一生分の後悔と痛み──
今はただその苦痛にひたすら耐えるしか術がなかった。
アレフは扉を閉めて向かいの壁に寄り掛かるターミルと視線を交わした。
ターミルは目を閉じ顎髭を撫でていた手を止めてニヤリと口元だけで大きく笑う。
それに合図をするようにアレフもふっと目を伏せて笑った。
「ザイード様はどんな様子だ」
隣を歩きながらターミルは語りかける。
「葛藤している最中でしょうな……」
ターミルはその言葉にニヤついたまま、うんうん頷いて見せた。
「ならば、もう少しばかり葛藤しといてもらうかの」
くくっと楽し気に声を漏らす。
アレフも同様に少しばかり楽しそうな笑みを浮かべてターミルの肩を叩いた。
「あとの渇入れはターミル殿に任せましたよ…」
「うし、わかったわい! まあ任しとけっ…あとは繋いだ導火線に火を付けるより容易いこった!」
猛将はそう言い切ると仰け反る勢いで顔を仰ぎ豪快な笑い声を城に響かせていた。
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