14章 王位継承権

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 これ以上は何もない── ないのだから安心だ… なんてわけにはいかない。 巻き付くようにして抱き締めてくる逞しいアサドの腕に愛美は鼓動が早まり苦しくなってくる。 強く締め付けられているとかはではなくて、余りにも突然で安心しきっていた上の不意打ちに、愛美は唾を何度も飲み込み躰を硬直させていた。 この二日間、何度も胸を借りて泣いた記憶はある。 でもここまでドキドキすることはなかった── それはただ旦に、泣いた愛美をあやす為だけの行為であり、愛美自身もそれをわかっていてちょっと甘えていたからだ。 でも今は、背中から抱き締められている状況に愛美は大いに焦り高鳴る心臓の音に深呼吸さえも仕方がわからなくなっている。 身を庇うようにして躰を縮める愛美の肩に腕を回すとアサドは愛美を自分の方に容易く向きを替えさせた── “ええっ!?” 愛美は声に出せないままそんな驚きの表情をアサドに向けた。 アサドはそんな愛美から何気に視線を反らす。 向かい合った愛美の躰をアサドは再び抱き締めて肩に顎を預け囁いた。 「──…こっちの方がしっくりくる…」 「………」 何故か抱き締める腕にぎゅうっと力を込めてくる…… まるで抱く感触を味わうような仕草に愛美もどう対処していいかわからずにされるがままだった──
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