14章 王位継承権

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・ 色々と世話を焼いてもらったせいか、無下に突き放すことができない── しかも鼓動は早まる一方だ。 愛美はさりげなく肌けたアサドの胸元を手で押し返した。 「──…っ…」 その途端また離れた肩を引き戻すようにアサドに抱き締められる。 「…っ…あのっ…──」 「明後日には日本に帰るんだ……このぐらいは許せ」 「……こっ…」 このぐらいって…っ このぐらいって言われたら確かにこのぐらいだけど…っ 今までに何度も抱き締められたまま眠ったこともあるけど──…っ でもなんだか今日は状況が違う気がする── 「──…っ」 そう思いながらも愛美は離れる術がなかった。 抱き締められて頬に当たる茶褐色の逞しい胸元── 肌もオイルで手入れされているのだろうか。 とても瑞々しくて引き締まっている── ザイードの香油の香りとはまた違う、スパイシーなブレンドオイルの香りについ鼻を擦り付けたくなってしまう。 はっ… ダメダメっ── ついウットリとなった自分に愛美は渇を入れていた。 ・ ベッドで抱き締められる心地よさ── それは何度味わってもいいものだ。 包み込むように大きな手で頭を撫でられながら、厚い胸板にそっと密着させられてアサドの鼓動が伝わってくる。 何時もより早いのだろうか。 意識したのが初めてだからわからない。この鼓動の早さが当たり前なのだろうか。 愛美は目の前のアサドの素肌を見つめ、いつの間にか遠くを見ていた。 「………」 そうだ……明後日には日本に帰るんだ…… アサドの言った言葉がふと愛美の脳裏を過った。 日本に帰ったら── もうこんなこともないんだろうな…… 知ってしまった人の温もり。 それは愛美にとっても愛しいものになりつつある。 ここに来て── 普通では経験出来ないことを沢山知った── これで日本に帰ったらまた違う景色が見えるんだろうか── 普通の人よりちょっと真面目に生きてきて、少し気晴らしにと奮発した海外旅行── 突然現れたシーフ擬きのシークに拐われて 恋をして…… 予定は大幅に狂ってしまったけどその旅行ももうすぐ終わりがやってくる。
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