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辛いことばかりではなかった。
セナやアーキル。そしてこの少し老いたアレフや豪快に笑うターミルと過ごした少しの時間はとても楽しさに溢れていた。
日本での独り暮し、そしてバイトと当たり障りなく接する大学の友人達よりも密度の濃い付き合いがここにはあったと思える。
正直に言えば……
帰りたくはない……
愛美はアレフに否定した言葉を返しながら下をうつ向いた。
帰りたいなんて思ったのは何故?
愛美は自分に問い掛けた。
もちろん相手にされなかったからだ──
あの人に…
初めて好きだと自覚したあの人に……
ザイードに相手にして貰えずこれからも寂しい思いをするならいっそ──
離れて日本に……
そう思った心が日本に帰る決心をさせた。
愛美はうつ向いたまま唇の端を噛み締めた。
熱く抱かれた記憶があるからこそ、冷たくされることがとても耐えられない──
膝に置いた手を見つめる愛美の下瞼の睫毛に丸い水滴がゆらゆら揺れる。
視界が微かに歪み愛美はそれを払うように瞬きををすると水滴が手の甲にパタリと落ちた。
アレフはそんな愛美に封筒を差し出していた。
「これは?」
涙を拭いながら愛美は顔を上げて尋ねる。
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