14章 王位継承権

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・ 「うん。明後日には帰るから、今日はこれぐらい許す!」 「──……」 笑顔の愛美の台詞にアサドは面食らった表情を向ける。そして吹き出すように笑い出した。 「しまった──…」 微かに目尻に溜まった涙を拭いアサドは呟いて愛美をまた抱き締める。 愛美はアサドの呟きに抱き締められていた顔を仰向かせた。 「どうせ許してもらえるならもう少し際どいことをしとけばよかったな…」 「……っ…」 少々焦り気味の愛美をまたもやアサドは大笑いしていた。 揺れる肩が静かになるとアサドは愛美を抱き締める腕にゆっくりと力を込めた。 砂漠で行き倒れの愛美を連れてきてからほんの僅かな時間を共にした。 いつしか眠りに入った愛美を見つめ、アサドはふっと笑みを漏らす。 そして愛美の肩に額を預けて小さく溢した。 「やばいな──…帰したくなくなってきた……」 アサドは細い愛美の肩を抱き寄せて切なく瞳を緩ませた。 やはり兄弟なのだろうか── ザイードが翻弄される気持ちが何となくわかる。 全てが自然体で飾り気のない、ましてや女の性(さが)というものを全くといっていい程売りもせず媚びない。 愛美のその純粋さにザイードも夢中になっていったのだろう…… アサドは腕の中の愛美を見つめもう一度優しく抱き締める。そしてベットを離れ、ソファで躰を休め朝を迎えた。
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