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「あたしが帰ってもっ…あの人は何もっ…」
「思わない」
「──っ!?…」
「そうお思いですかな?」
アレフに逆に問われ、愛美は込み上げてくる切ない感情で、熱い喉元に溜まった物を飲み込みながら大きく頷くと下を向く。
唇は震えっぱなしだ。
ザイードのことを思い出して口にする度にいろんな事を思い知らされる。
苦しくて辛い──
やっぱりここには居られない……
日本に帰って自分の日常を取り戻す──
ここでの夢は…
全て忘れる──
それが今の自分に合った正しい選択なのだと愛美は言い聞かせながら目頭を潤ませる。
「では……」
「………」
アレフは苦し気な表情のまま涙を堪える愛美に声を掛けた。
「マナミ様──…私と賭けをしましょう…」
「賭、け…?…」
突然の切り出しに愛美は泣きかけた顔を上げてアレフを見つめた。
真っ直ぐに愛美を見てアレフは頷く。
「ええ…“賭け”でございます──」
「………」
「マナミ様はどうぞ日本にお帰りください」
「──…」
「そしてもし、マナミ様の言われる通り、ザイード様がマナミ様のことをなんとも思っていらっしゃらないのであれば──…賭けはマナミ様の勝ち。私が日本に出向き、日本でマナミ様を御接待させて頂きます。もちろんどんなお申し付けをされても結構でございます──が、しかし…」
「………」
愛美は目を見開いて言葉を止めたアレフを見つめ、ゆっくりと息を飲む。
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