14章 王位継承権

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・ 閉まった扉を背にしてアレフはふと顔を上げる。 「二日後はちょっと早すぎないか? 俺でも焦るぞ」 「………」 壁に寄り掛かり、腕を組んで静かに声を掛けたアサドの耳にはコードレスの小さなイヤホンが付いていた。 「盗聴でございますか? いいご趣味をお持ちのようで」 嫌みを返すアレフにアサドは鼻で笑い返す。 「……軍人の居間を借りて密会できるとはお前も思っては居ないだろう?」 「当たり前でございます。今の話は聞かれたってどうってことはございません──」 「ザイードの為に必死で引き止めると思ったが……当てが外れたな」 アサドのボヤキにアレフはふっと笑った。 「で……どうする気だ? マナミを日本に帰して……」 「さあ、どうしましょうか──」 笑みを浮かべたままのアレフの顔を見つめるとアサドはニヤリと口角を上げた。 「ふん…しらを切ったつもりか……お前のことだ、ザイードを焚き付ける気でいるのだろ?」 「おや、さすが読みが鋭い──…」 アレフは流した目線の端でアサドを見据える。 「わかっているのならマナミ様にはどうぞこのことは御内密に……帰って頂かなければ事が運べませんので」 「ふ……俺は構わん…アイツがこの先どうするか兄としてじっくり監察してやる──」 何処かしら楽しそうな笑みを含みアサドは居間のドアノブに手を掛ける。 「車を外に待たせてある。馬は置いてそれで帰れ──…じゃあな」 アサドは玄関に向かったアレフの背中にそう声を掛けると耳のイヤホンをポケットに仕舞いドアを開けていた。
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