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せいぜい5階建てのビルに、上からも下からも横からも踏み込んでいく。
素人目にもテロリストに逃げ場はないように思えるよ。
それと同時に、焦りというか、違和感みたいなものが心に広がってきた。
僕の書こうとした物語は、就職が見つからず家族に理不尽にいじめられる青年が主人公だった。
それがハローワークへ行く途中に交通事故で死んでしまい、剣と魔法のあるファンタジーの世界に行く。
連れて行くのは、主人公をあまりに不憫に思った神様。
モチーフは室町時代、戦国時代の日本だ。
そこで、強力な妖術を持つようになった主人公が、悪党をバッタバッタ倒す物語だ。
僕自身はそれほど悲惨な境遇じゃないけど、今現在に不満を抱き、逃げ出したいという気持ちは理解できる。
そう思ったから、苛立ちを吹き飛ばすような爽快感ある話を目指したんだ。
でも、今目の前にある世界は、僕の物語とはあまりに違う。
それが、怖い。
本当は、僕の意思によってここに来たわけではないんじゃないか?
その時だ。
艦内にけたたましい電子音がひびいた。
「緊急警報! ビル内部からです! テロリストが、次々に怪獣化していきます! 」
オペレーター役の生徒会や士官候補生が叫びだす。
「遠ざけていたテロリストも怪獣化して、戻ってきます! 数は……22! まだ増えていきます! 」
次の瞬間、ビルからそれまでの電撃やビームに変わり、巨大な毛むくじゃらの手足が突き出した。
他にも、角や翼。機械的な大砲や建設機械のような腕も見える。
明らかにビルの体積を超える巨大怪獣だ。
「うわっ! やられる! 」
思わず口をついた。
『落ち着け。仲間は全員無事だ』
ノーチアサンさんが、落ち着いた様子で説明しだす。
『自力で脱出するものも多い。それができなくともテレポーテーションで転送する能力者が控えている。その上、望む可能性を100%にする能力者もいる』
ビルの爆炎が遠ざかっていく。 ノーチアサンさんは上昇を始めていた。
『私の中に入ればもう安全だ。バリアシステムは正常。捕虜たちも怪獣化していない』
そう言われると、落ち着いてきた。
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