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「私って先輩のこと嫌いじゃないですか?」 隣にいる後輩が真顔で僕に向かって言ってきた。 「え? マジで?」 僕の驚きの言葉にひかりが目を見開いて大口を開ける。ひかりは端正な顔の持ち主だった。10人いれば8人は可愛いと言うだろうレベルの顔がその驚きでコミカルに崩れている。 「気が付いていなかったんですか? マジでミドリムシレベルの脳みそですね」 半眼で僕を睨みつけて辛辣な言葉を投げつけてくる。顔が可愛くても性格はまるで可愛くない。 「いくらなんでも失礼じゃないか」 僕がたしなめると、ひかりは真っすぐ綺麗な形をした眉尻を下げて反省した表情を浮かべる。 「すいません。……ミドリムシに対して失礼でした」 「そっちかよ! 僕の脳みそは単細胞以下なの!?」 「ミドリムシの方がまだ役に立ちますからね。知ってますか最近ミドリムシってユーグリナって呼ばれて健康食材として見直されているんですよ。人の役に立つ分、高宮先輩より価値がありますよね」 「言葉のナイフってこんなに切れ味あるんだな……」 僕はうなだれるように頭を下げる。体を動かすのに制限があるため、首だけをがっくりと下げた。 「それで、そんなミドリムシ以下の先輩に恥を忍んでお願いがあるんですけど」 「恥の他に忍ものがあるんじゃないのかな。暴言とか」 僕の言葉は当然のようにひかりに無視される。 「先輩。私と恋人になりましょう」 「は?」 今度は僕が馬鹿みたいに大口を開けて驚く番だった。 「人に対しては? とか言わないでもらえますか? 嫌な気分になるんで。言葉使いを両親に教えてもらわなかったんですか?」 「お前な」 「ああ。すいません。先輩に両親はいませんでしたね。細胞分裂で生まれたんでしたっけ?」 「僕は単細胞生物か」 「ミドリムシより役に立たない奴ですけど」 言葉のナイフの切れ味が増していた。 「……というか、僕の事はともかく両親の事を馬鹿にするな」 「そうですね。申し訳ありません。不謹慎でした。本当は先輩の両親の事は世界で一番尊敬しています」 「……いや、さすがにそれは言い過ぎじゃないのか」
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