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「こんな事して大人として恥ずかしくないんですか?」
ひかりが挑発するように吐き捨てる。
「これが仕事なので」
「碌な仕事じゃないですね」
「あぁん? なめとんのか。お前」
ヤクザがひかりに詰め寄る。
「やめろって言ってるだろ」
僕が言うとヤクザが僕を睨みつける。ヤバい。怖ぇ。
「彼氏やったかの? あんま調子に乗んな!」
思い切り拳で腹部を殴られて胃が持ち上げられる。胃酸が喉までこみあがってくる。
げほげほとせき込んだ。
「やめて!」
ひかりが叫んだ。
「あぁん! うるさいわ!」
ヤクザがひかりの頬をひっぱたいた。ぱぁんと甲高い音が響いてひかりが椅子ごと倒れる。
気が付いた時には椅子ごと立ち上がってヤクザに体当たりしていた。足が縛られているから自由に動けずヤクザと一緒に床に転がる。
「何すんじゃ!」
ヤクザが僕を蹴り飛ばす。床に無様に転がりながらもヤクザを睨みつける。
「女の子殴ってんじゃねぇよ!」
頭に血が上って叫ぶ。
「ほう。なら女の人でなければいいのですか?」
インテリメガネがメガネを持ち上げながら言った。
「いや、それはほら。言葉のあやというな。ほら。暴力反対」
椅子ごとずりずりと引きずって後ずさる。みじめに地面を這いずりながら逃げる。
「いえいえ。謙遜しないでくださいよ。私はそういう心使いは尊敬できるものだと思います。ただ、それが本物かどうかですけどね」
インテリメガネが視線で合図するとヤクザがひかりに近づいていく。自分は僕の目の前まできて座り込んだ。
「いまから、あの子を5分に一回、一発ずつ殴ります。女の子の顔を殴ったらひどい事になるでしょうね」
ひかりの瞳がわずかに揺れた。
「マジサイテーですね」
声こそ震えていなかったが明らかに強がりだった。
「やめろ!」
「一つ。選択肢をあげましょう。あの子が殴られない代わりに指一本。あなたの指を一本折ればあの子を殴るのをやめてあげます。大丈夫ですよ。指の骨折ぐらい治ります。女の子の顔に傷ができるより全然いいですよね」
頭がイカれてる。
「先輩。こんな馬鹿の言うこと聞かなくていいですよ」
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