幸福な降伏

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 BGMはゆっくりとした琴の音。耳に心地好い。  翔吾くんの指を親指で一本一本ゆっくりと撫でながら、節が大きいなぁと思う。湯川先生の指とはまた違う。男の人の指。 「合宿と試合はどうだった?」 「まぁ、良かったよ。勝てたし」 「良かったね、おめでとう」 「ありがと。最後の試合だからね。頑張るよ。ほんとは観に来て欲しいけど」  土日なら何とかなるかなぁ。でも、野球と違ってサッカーはルールをよく知らないから、とりあえず翔吾くんだけ見ていればいいのかな。ボールを見ていればいいのかな。  解説……健吾くんに頼もうかな。あ、でも、健吾くんはサッカーに詳しいのかな。 「土日なら行けるかなぁ」 「そう? じゃあ、来月の十七日は?」 「来月……九月十七日、は、難しいかも」 「三連休だから、セフレの誰かとどこかに行くの?」 「ううん、そうじゃないんだけど」  ぎゅうと手を強めに握られて、真面目そうな顔をされて、じっと目を見つめられるとドキドキする。久しぶりに会っているからなのか、恋人になったからなのか、わからないけれど。 「あかり、俺……」 「お待たせ、あかり。引き継ぎがちょっと長引いちゃって」  個室にやってきた湯川先生の顔を見て、私と翔吾くんの緊張が高まる。思わず、手を引っ込める。 「あ、いいのに、それくらい。慣れなきゃいけないんでしょ、そういうのも」  私の右隣に腰を下ろし、湯川先生が笑う。笑うのに、私の右手、翔吾くんに見えない位置で重ねられていますけど!? あ、今、ぎゅって握られましたけど!?  平気そうな顔をして、妬いている先生がかわいい。ちょっときゅんとする。
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