幸福な降伏

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 兎にも角にも、三人揃った。どこをどう見ても、何の関係者なのかわからない。恋人同士と兄? 恋人同士と弟? 女を巡るセフレ――恋人たちの修羅場だとは思えないだろう。  ……これを修羅場と呼ぶべきなのか、いまいちわからないけれど。 「ええと、こちらが湯川望さん。夢宮総合病院で心臓血管外科の先生をしています」 「初めまして。湯川です」 「あちらが桜井翔吾くん。誠南大学経営学部の三年生です」 「初めまして、桜井です。いつもあかりがお世話になっています」 「こちらこそ、お世話になっています」  二人それぞれ頭を下げる。火花は……散った、のかな?  険悪な空気にはなりませんように! 殴り合いにはなりませんように!  私は必死で祈るけれど、そんな私には気づかず、二人は飲み物のメニューを見ながら勝手に話をしている。 「翔吾は飲めるほう?」 「飲むけど、さすがに昼からは飲まないかな」 「俺も。じゃあ、お茶でいいか。和食が好きだって聞いていたけど、食べられないものはあった?」 「和食なら何でも食べるよ。あ、お気遣いどうも」  一切敬語を使わないあたり、二人はお互いを何だと思っているのだろうか。  仲間、ではないよね? ライバル? ほんと、何? 私はどういう顔をして、どう接すればいいの? 何が正解?  湯川先生が手早く注文をして、早速麦茶が運ばれてくる。どうやら何かのコースに決まったらしく、前菜が綺麗に盛り付けられた器が目の前に置かれる。  ……たぶん、緊張のあまり味なんてしないんだろうな。 「望さんはあかりといつから?」 「今年の二月。翔吾のほうが長いだろ?」 「じゃあ、二ヶ月しか違わないよ。俺は十二月だったもん」  白和え、美味しい。鶏の香草蒸しも美味しい。  ……二人とも、私と話すときとちょっと口調が違う。男同士の会話、なのだろうか。非常に口を挟みづらい。私は出された料理を黙々と食べるだけだ。
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