幸福な降伏

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「来年、就活どうするの?」 「親の会社は弟に継いでもらうから、俺は別の会社に行く予定」 「あぁ、だから経営学部なの。親が社長か」 「望さんとこも親が医者?」 「そう。医者の息子は医者になるんだなぁ、なぜか」  打ち解けて、いるのかな? 二人とも、変に気を遣ったりはしていない気がする。  あ、お造り綺麗。煮物も美味しそう。最近煮物作っていなかったから、作ろうかな。佐々木先輩の肉じゃがのレシピ教えてもらえばよかったなぁ。佐々木先輩が退職する前に聞いておこう。 「俺、十二月で病院辞めることになったんだけど、他の病院へ行こうと思ってて」 「へっ? 湯川先生、クビになったの?」  思わず驚いて隣の湯川先生を見上げる。先生は「先週話したじゃん」という顔をしている。  はい、そうですね、聞きました。でも、そんな簡単にクビになるなんて思わなかった。よく働く心臓血管外科の医者は、病院にとっては利益であって、手放したくないと思っていたから。  医者の世界は案外シビアなんだなぁ。 「あー、まー、病院長の娘との縁談断ってあかり選んだんだもん。仕方ないよ。予想の範囲内だよ」 「縁談断ってあかりを選ぶ気持ちはわかるよ、俺」 「わかってくれるか、翔吾。あかりといると、他の女は目に入らなくなるよな」  二人して頷くところじゃないよね、そこ! 同意するところじゃないよね!?  二人はアイコンタクトの中でがっちり握手をしたようだ。 「だから、今後の就活次第では、年明けに結婚してあかりを地方に連れて行くかもしれないんだけど、翔吾はどうする?」  湯川先生、めちゃくちゃサラッと何言ってるの!? 「結婚」とか言ったら、翔吾くん驚くでしょ! 「あ、じゃあ、俺は一年後に合流するよ。籍入れないでしょ? 部屋、空けといてくれる?」  っは? 翔吾くん、動揺しないの? 私はめちゃくちゃ動揺しているけど! これも想定の範囲内ってやつなの!?
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