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仁王立ちの私は、立てた親指で後ろの桜の木をさしながら、私の前に立つ青柳遥人に勝負を持ちかけた。
「三十九勝三十九敗二十二引き分け。私たちの最後の勝負は、これにしない?」
高校生活最後の日。
今日は卒業式。
桜の木はすでに満開で、ハラハラとその花弁を散らしている。
「桜? 何をするんだ?」
いつの間にか私よりも背が高くなった遥人が、その快活な表情を変えてニヤリと笑い、黒い瞳を面白そうな何かへ期待するようにキラリと瞬かせる。
これは遥人が勝負を受ける時の顔だ。
遥人とずっと勝負してきた私には分かる。
「桜の花びらは、地面へ落ちる前に拾うと願いが叶うってジンクスがあるの。だから、それで勝負よ。花びらが落ちる前に、先にキャッチ出来た方が勝ち。これが私たちの最後の勝負よ」
これで最後。
大学の違う私たちは、この卒業式を期に会うことがなくなる。
長かった私たちの関係も――このケンカ友達という関係も最後になる。
だから私は……。
「いいぞ。最後に俺が勝ってやる」
「勝つのは私よ」
私は勝って願いを叶えたい。
バクバクと高鳴る心臓をなんとか抑えながら、すました顔を遥人に向ける。
この願いは気付かれちゃいけない。
この気持ちは、勝ってから伝えるんだから。
「準備はいい?」
二人で桜の前に立ち、私は遥人に確認する。
「ああ、いいぞ」
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