桜ジンクス

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「で、花びらが地面に落ちる前に拾えれば、願い事が叶うんだっけ?」 「うん。そうだよ」  告白を諦めたことをさとられないように、私はいつもの調子で喋る。  ……いつも通りに喋れてるかな? 「お前は何を叶えたかったわけ?」 「うーん、秘密」  今さらこんな気持ちで、遥人と付き合いたいなんて言えるわけがない。 「遥人は? 何か叶えたいことある?」  これ以上、突っ込んで聞かれないように、私は逆に聞いてみた。 「俺? 俺は……」  少し考える風に、遥人は空を見上げる。 「ある。願い事」  手のひらに花びらをのせると、遥人はそれを拝むようにして両手で挟んだ。  そして、目をつぶって、遥人は大きな声を出す。 「好きな子と、付き合えますように!」  ……え?  何?  好きな子? “好きな子と付き合えますように”?  その言葉が、真っ白になった私の頭から、身体に流れてじわりと浸透していく。  そして、それが端まで行き渡ると、急速に心が冷えていき、私の手は震えだした。  そっか……。  遥人には好きな子がいたんだ……。  震える手を、私は両手でギュッと握りしめる。  言わなくて良かった。  告白しなくて良かった。 友達のままでいれて良かった……。  神様はちゃんと分かってたんだ。  失敗するって……。  だから、花びらは私の元には落ちてこなかったんだ。
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