桜ジンクス

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「どう? 叶いそう?」  片目だけ開けて、遥人は私をチラリと見る。 「それを……」  それを私に聞くの?  私は思わず出かかった言葉を飲み込んだ。  今の私にそれを聞くのは残酷すぎる。  けれど、遥人は私が告白しようとしてたなんて知らない。  このまま友達関係を続けるなら、いつも通りのケンカ友達を続けるなら、答える言葉はこうだ。 「そんなの分かるわけないでしょ。でも、私より先に付き合う相手を作ろうなんて生意気ね」  声は上ずらずに出せた。  いつも通りの私で出せた。  悲鳴を上げる心の中で、私はひっそり息を吐く。  演技はうまくいった。  けれど、もう遥人を見ていられなくて、私は空を見上げた。  空は私の気分とは違って、憎らしいほどにどこまでも晴れ渡っていた。  いっそ雨でも降ればいいのに。  そしたら、涙が流れてもバレないのに。 「そうでもないよ」 「何が?」 「分かるよ」 「は?」  わけのわからない遥人の返しに、思わず遥人を見て慌てて顔を伏せる。  え?  伏せるまでの一瞬で、遥人の顔が見えた。  遥人は今まで見たこともない、真剣な顔をしていた。 「お前には分かるよ。俺の好きな子は……。お前だから」  ……え?  顔を伏せたまま、私は戸惑いに目が泳ぐ。  遥人から言われた言葉を、動いてくれない頭で必死に考えた。  好きな子はお前?  えっと……。
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