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春。爽やかな風に乗って、桜が陽気に舞う。
「あなた、朝ですよ」
「……ん」
妻に起こされ、俺こと健一は目を覚ました。
妻の名は来と書いてライと読む。外国生まれのような名だが、立派な日本生まれである。
妻は俺が起きたのを確認すると、すぐに台所へと向かう。朝食を作っているのであろう。全くもって良くできた妻である。
本が乱雑に散らかる机から眼鏡を取り、視界をはっきりさせる。
「あっ、とーと起きたー!」
とっとっと、俺の娘の桜がかん高い声をあげながらやって来る。
「おはよう。よく眠れたか?」
「頭がオフになってただけだから、眠れたという感覚がないのだー」
「素直に眠れたと言いなさい」
「人間のじょーしきって難しいね?」
「ああ、そうだな」
「あなたー、桜ー。ご飯運んでくれる?」
「ママの指令だ。行くぞ」
「おうなのよさっ!」
どこから覚えてきたのかわからない言葉で、元気よく返事する娘とともに、朝食を運ぶ。
それから程なくして、妻が作ってくれた朝食を食べ終え、食後のひと時に身を委ねる。
今日は久々の休日。今日は娘と遊んでやるか。それが親たる俺の役目だ。
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