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目の前の映画のように甘い光景に思わず照れてギャラリーに目を逸らすと、海事女子の幾人かの頭が明らかに傾いている。
まさか……。
時間にして何秒ぐらいだろう?
ものすごく長く感じたキスの後、戸川っちがわずかに顔を離した。
触れそうな距離のまま、戸川っちは成瀬ちゃんに優しく微笑んで何か囁いた。
一同の瞳孔が広がる中、戸川っちはもう一度、角度を変えてキスをした。
成瀬ちゃんの手がおずおずと戸川っちの背中に回されて、さらに甘さを増した光景にまたも目を逸らせば。
……ギャラリー女子の頭は、さっきと逆方向に傾いていた。
この神聖な場で、かなりの人間が戸川っち相手にあらぬ妄想を繰り広げているらしい。
そこで不気味に静かな美香先輩を横目で窺ったことを、相原君は激しく後悔した。
決して見たくはなかった。
美香先輩の“ちぅ顔”を。
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