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戸川っちのお父さんはどれだとか、兄弟を狙えとか。
興奮状態の女子のお喋りでチャペル内はザワザワしていたけど、そうこうしているうちにオルガンの音色が響いて、式の始まりの合図があった。
聖歌隊の短い歌の後、後ろのドアが開いた。
(おおぉ…!)
女子の声なき叫びの中、一礼しながら入ってきたのは黒のタキシード姿の戸川っち。
少し薄暗いチャペルの中、正面の祭壇からのほのかな照明を受け、まっすぐに前を見つめる姿は確かに超絶格好良かった。
タキシードめちゃくちゃ似合ってるし。
「かっ……かっ……」
“格好いい”と言いたいんだろうか、美香先輩が横で意味不明な音を発している。
女子が生唾を飲んで一挙手一投足を見守る中、戸川っちは左右の列席者に軽く一礼してから、堂々とした足取りで前へと進んだ。
あの涙の夜以来、一年ぶりだ。
戸川っちが通り過ぎる時、なぜかお父さん気分で感無量になった。
社食で成瀬ちゃんの悪口にキレた姿。
別れた時の静かに苦しむ姿。
涙ながらに突っ伏してた姿。
必ず帰ると空港で吠えた姿……。
いろんな戸川っちが走馬灯のように頭の中に浮かんだ。
本当に一人でよく頑張った。
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