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お父さんが親族席に下がり二人が祭壇に進む時、戸川っちがほんの一瞬、成瀬ちゃんに目だけで微笑みかけたのが見えた。
ここから見えないけど、戸川っちを見上げる成瀬ちゃんもきっと恥ずかしそうに微笑んだだろう。
戸川っちは斜めに構えて無愛想にやり過ごすと思ってたから、ちょっと意外で感動だった。
新郎新婦がこちらに背中を向けてしまうと美香先輩もとりあえず静かになったので、やっと落ち着いて式の進行を静かに見守った。
賛美歌や聖書の朗読などの後、誓いの言葉が始まった。
「妻を愛し、敬い、慰め、その健やかなるときも……」
戸川っちが答えるタイミングはもうすぐだ。
近くの誰かがゴクリと生唾を飲む音がした。
「誓います」
(おおぉ……!)
いたって普通の手順なのに、戸川っちがはっきりと答えた瞬間、女子一同から恍惚のため息が漏れた。
一年半ぶりの戸川っちの声だし。
次は成瀬ちゃんの番。
「誓います」
(ああぁ……)
成瀬ちゃんが答えた時、女子一同からは今度は落胆のため息が広がった。
“成立してしまった…”と言わんばかりの、露骨すぎる女子一同に頭を抱えたくなる。
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