桜の花びら

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桜の花びら

  ある平日の午後。春の暖かな日差しを受けながら俺は公園のベンチで日向ぼっこをしていた。 見上げると、澄み渡る空の青と満開の桜の木のピンクが視界に入る。 それを見て思わず「あぁ、綺麗だ・・・」そう呟く。これまで20年近く生きてきて初めてそう思った。 今までは生きるのに精一杯で、桜なんてまともに見たことがなかった。毎年、桜は咲いていて普通に生きていたら嫌でも視界に入ってくるはずなのに。   右の手を目の前に差し出すと、手のひらに一弁の花びらが落ちてきた。その手を目の前に引き寄せて花びらを凝視する。(桜の花びらってこんな形をしているのか)とか(思ってた色と少し違うな)とか今更な感想ばかりが頭に浮かぶ。確かにこの日本で育ってきたはずなのだが、まるで桜を知らない異国から来た人のようだ。 やがて花びらを両手で包み込むように握りしめる。 そして今、俺は生きているんだ。そう改めて実感した。   そもそも俺は今頃死んでいるはずだったのだ。幼い頃から病に苦しめられ、ずっと病院で生活をしていた。毎日毎日、起きても目に入るのは白い病院の壁で、たまに外出しても周りは車やビルばっかり。こんな綺麗な景色を見るのは病室に備え付けられているテレビの中だけだった。そして一年前には担当医からこのままだともう長くは生きられないだろうう、と宣告された。  それでも俺は諦めずに生きていくための方法を模索した。そしてその結果、成功確率10%未満のリスクが高い手術を受ける事となる。たとえ成功しても病気が完治する可能性は低いから、あまりオススメはしないと医師から言われていたのだが、このまま何もせずに死ぬよりかは幾分マシだったので、俺は手術を受ける道を選んだ。  結果、手術は無事成功し、奇跡的に病も完治した。その証拠に今こうやって地に足をつけて、呼吸している。とはいっても今日退院したばっかりなのであまり体力はないのだが・・・。  他の人よりも遠回りしてしまった分、これから様々な試練や困難が待ち受けているだろうけど、なんとかそれを乗り越えながらこれから先もずっと生きていきます。まだ手の中にある桜の花びらにそう誓った。
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