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エンドール
辺りは真っ暗で目の前のスクリーン以外は殆ど何も見えない、映画館のような、でも何故かぼんやりとしている不思議な空間。そこで俺は椅子のようなものに腰掛け、しばらく映画のようなものを見せられていた。 今は本編らしきものが終わりエンドロールが流れている。
率直な感想を言うと、なんともつまらない物語だった、
ストーリーはただただ同じような光景が何度も繰り返される短調なもので、これが悲劇なのか、はたまた喜劇なのか自分にはイマイチ判断ができない。
出演者も殆どが無名人で演技も今ひとつ。
とにかく褒め称えるところがないのだ。
少しでも面白ければそれで良かった。少しでも何か心を掴むようなモノがあればそれで良かった。でもそれらは何一つ無かった。
だからこの作品は酷評されて当然なのだ。いや、もっと言ってしまえばレビューする価値すらないのかもしれない。誰からも見向きもされず、時間とともにフェードアウトしていくのが似つかわしいとすら言える。
自分はこの物語を見たくもないのに見せられてしまった。当事者だからだ。さもなければこんなものは見たりしない。時間の無駄だ。
悲しみ、苦しみ、悔しさ、切なさ。自分の中にある全ての負の感情を力に変えて思いっきり唇を噛み締める。溢れ出る感情を抑える為、必死に噛んだつもりだったが唇から血が出るほどの力は残っておらず、しばらく経つとそれすらできなくなった。
スタッフロールも流れ終わり画面にはENDの文字が表示された。もうすぐだ。もうすぐこの苦痛から解放される。
しかし、それが流れ終え暗転した後、画面はもう一度光を取り戻した。そこに映し出されたのは自分の宝物だった。家族、友人、大切にしていた私物の数々。
それらはいつもと同じ筈なのにとても輝いて見えた。
さっきまで抱えていた痛みがふっと消え去る。そうだ、何も無いなんて事はない。この作品を見る価値はあったんだ。一転してそんな明るい気持ちが芽生える。そしてそれは水を与えられた植物のようにどんどん肥大していって、ネガティヴな心を侵食していった。
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